4月10日の日記(2) 福岡伸一×大竹昭子 トークショー

横浜から渋谷に移動して、青山ブックセンター本店に。分子生物学者の福岡伸一さんと文筆家・大竹昭子さんのトークショーに行ってきました。福岡さんはもともと大竹さんのファンだったそうで、大竹さんの本を紹介する福岡さんの語りがとってもいい。福岡さんの新著『動的平衡』に対する大竹さんの感想もよくわかる。最後は自著ではなく対談相手の著書を朗読するという、これまたうれしい企画。熱気につつまれたあっという間の1時間30分。おもしろかった。
会場から質問もたくさん手が挙がっていたし、お客さんの多くが気分を高揚させていた様子。僕も大竹さんに「福岡さんの文章の魅力はどこにあるのか」という質問をしたかったんだけど、残念ながら今回はできなかった。なぜ、そんなことを聞こうと思ったかというと、今回のトークでは、福岡さんに関しては、やっていることや彼独特の視点と思考に話題がいってたので、福岡さんの文章そのものについてはあまり触れられてなかったのです。大竹さんが福岡さんの文体をどう思っているのかは、興味がある。
僕の考えでは、福岡さんが映画評論をはじめたら、あらすじを書いて映画を説明した気になっている多くの映画評論家なんかよりずっとすごいものを書くと思っている。ムーヴィング・イメージをあんなに上手に文章にできる人は数えるほどしかいない。
写真家のすごいところはよく見ている人ということだ。ファインダーから被写体を見て、ネガを見て、ベタ焼きを見て、プリントを見る。見た経験の積み重ねによる信用があると思う。福岡さんも優れた写真家と同じくらい、よく見ている人だと思った。メガネの度が強いのも、なんだか説得力があった。もしかしたら子供のころから視力は悪いのかもしれないけど。見る→イメージするの連続が、福岡さんと大竹さんに共通するところ。
トーク終了後に大竹さんの新著『随時見学可』を購入。お金がないところでの出費は痛いけど、大竹さんの本を読みたかった。というのも、大竹さんの書く東京が好きだから。
実をいうと「東京」があまり好きではなくなっている。東京に好きな場所はいっぱいあるのだが、総体としての東京にはうんざりしている。消費のスピードや根拠のない言説の流通が理由。僕が東京から鹿児島に引越すときもいろんな人に「なんで?」と聞かれた。そして「宇野澤君だったら好きな美術館も東京が一番多いし、東京のがなんでもいいものがいっぱい見れるでしょう」と言われた。がっかりする。まず美術館は、そんなに好きじゃないし。それはともかく、たしかに東京はものすごい物量があふれているから、いいものもある。でもくだらないものもいっぱいある。だから悪いかというと違っていて、とにかくそういうところ。いいとか悪いは嗜好の問題だけど、くだらないものがいっぱいあるのを、ないことにして、なんでも東京が一番そろっていていいんだという言い方にうんざりしてしまうわけです。
でも、大竹さんは違う。福岡さんとの対談中も、東京について話を振られると「東京は坂が多いですよね。坂が好きです」と言っていた。叫びたくなるくらい、うれしくなった。坂道を歩いていて、突然景色ががらっと変わる感動。美術館が多いとか、お店がいっぱいあるとか、それも東京だけど、坂道が多いのも東京。少なくとも大学院にいる間はまだ東京とつきあうわけなので、大竹さんの本を読んで僕も東京との関係をいいものにしたい。実際にローカルな視点で見ると、東京にいい場所はたくさんあるし、そういう場所のひとつひとつと関係をつくっていきたい。美術館より坂道です。