「もうひとつの森」(軽井沢メルシャン美術館)

6月の最後の日曜日、軽井沢にあるメルシャン軽井沢美術館に管先生や若い友人たちと行ってきた。佐々木愛が参加している「もうひとつの森」という展覧会を見るため。
佐々木愛はもちろんのこと、彫刻の三沢厚彦、写真の津田直、アニメーションのマイ・ホフスタッド・グネスのすべての作品が森を表象し、森をつくっていた。そこは森だった。美術品としていいとか悪いとかの判断を超えて、環境としてただ存在している。その森の中に入った経験は、言葉にし難い。
管先生がブログでこの展覧会のことを書いているので展示についてはそちらを読んでください。
http://monpaysnatal.blogspot.com/2009/06/blog-post_29.html
とはいっても感想を少し。数年前の青森で初めて佐々木愛の作品を見た。砂糖を使って描かれた大きな壁画だった。それから何回か作品を見る機会に恵まれたが、今回再び青森と同じくらい大きな壁画を見ることができた。青森で見た作品は山がモチーフだった。そして、今回は森の木々。山を眺める場所にいた佐々木が森の中に入ったような、そんなアーティストの意識の移行がうかがえる。
もちろん作家本人にはそんなつもりはないのかもしれない。また山も描くだろうし、もっと全然違うものを描くかもしれない。いずれにしても、佐々木愛は冒険していると思う。実験している。世界と自分との関係を記述している。更新している。
佐々木愛に導かれるようにして、森の中に入った我々はただ目と心を開けばよかった。そうすれば知覚が研ぎ澄まされて、森が現れる。心が震えた。木を見ていれば、木も自分も世界に含まれているのがよくわかった。
そして、たいていの旅には何らかの導きがある。その連鎖こそがもっとも重要なこと。佐々木愛たちアーティストを森に招いたgraf media gmの工藤さんのキューレーションは見事な仕事だったと思う。同じくgraf media gm豊嶋さんの空間構成もすごかった。豊嶋さんのクリエイティビティが森を成立させていた。
展覧会は7月10日に終わってしまう。わずかな季節に存在した「もうひとつの森」。だけど心の中に、その木々はあるだろう。動物たちもいるだろう。きっと、みんなの心の中にもうひとつの「もうひとつの森」があるのではないだろうか。工藤さんや佐々木愛の心の中には、僕なんかよりもっとはっきりとした姿で森があるはずだ。だって「森」での経験値がすっと多いわけだから。いつか、森でおこったさまざまなできごとを聞いてみたいと思う。