ティファナ

誰かの言葉を受け入れること、変形された他人の体験の記憶を受容するということは、どういうことだろう。文学を読むこと、詩を読むことでおきる現象にはいくつもの形容があるだろうけど、僕にとって読書は旅に誘われることだ。どんな文学だって読む人にとっては自分の外側の体験が記述されているものだし、それを読みテキストの流れによりそい、進んで行くということは、他人の試みを再生することだ。そうして先行者の行為、行動、歩行と呼吸、つまり旅をなぞってしまえば、気持はもうここにはない。
読書だけではない。歌を聴くことも同じ。いくつかの地名とほんとにごくわずかの単語だけしかわからない歌だって旅の衝動をかきたてるには充分だ。
歌は旅の呼びかけ。こっちにこいよ。風景が変わるぞ、空の色がすてきだ、見晴らしがいい場所に気持のいい風が吹いている。人々がはつらつと歩いて、すれ違うといきいきと言葉を交わす。その土地の方法で働き、遊んでいる。そんな景色は幻かもしれない。でも自分が知らない場所、行ったことがない場所で、たしかに生きている人がいるというのは、それだけでわくわくすることだ。

というわけでメキシコに行きたい。
マヌ・チャオの「Bienvenido A Tijuana」。この曲はいろんな場所での演奏がYouTubeに上がっています。その中から2つ。

http://jp.youtube.com/watch?v=P1YABxXhl-Q&feature=related
http://jp.youtube.com/watch?v=6rPtyvvDVhk

今すぐには行けない。でも、いつかティファナに。