アートかどうかよりも、クリエイティブかどうか

経済的なこととか、家族のこととか、立て続けにいろいろ問題が発生しているのだが、不思議なことにそういう悪い状況のがやる気がでる。僕が考えようとしていること(「地域」のこととか、「作るより使う」とか、「〜との関係」とか…、藤さんの影響が大きい)が、個人的な問題とどう関係してくるかというのはおもしろい。リアリティがでてくる。
美術館がなくなったら成立しない「アート」とも縁が切れる。もともと関心はないんだけど。それでも、思わずあふれでてしまうような切実な表現には触れていたい。これだけは伝えたいという強烈な意志には耳を傾けたい。そういうものを見たいのは変わらないだろう。
とにかく、つまらないことに時間を使うこともなくなるでしょう。最初からそうしろよ、というのはごもっともなんだけど、なかなかそうもいかなかったなぁ。アートの外のことを考える2年間にしたかったのに、ギャラリーというもっともアート的なシステムで動く場所でやることに関わったりして時間を無駄にしてしまった。なんで修士研究で一番否定したい場所に関わらないといけないのか…。ギャラリーの使い方を積極的に更新できればいいんだけど、最悪に保守的な方法で展示をしちゃったから思い出すと泣けてくる。実際にあまりに屈辱的な体験で心が折れそうになったし。もう、しかたがないけどさ。
僕が造形大時代に教えてもらった森口陽先生のセゾン美術館時代の部下で、武蔵野美術大学でキュレーションを教えている新見隆さんは、「お茶会ができれば展覧会ができる」という話をしていた。僕もそう思う。「これを見てもらいたい」と「これを食べていただこう」とか「このお茶を飲んでもらおう」と考えるのは本質的には同じことだろう。それ以上に専門的なことも現実の展覧会を行うにはいろいろ必要になってくるけど、一番大事なのはおもてなしのモチベーションだ。食べてもらいたいと思っていないものを出すお茶会はありえない。見てもらいたいものを展示するのが基本だ。もてなす側にそのモチベーションがなければ、お客さんも興ざめする。
DC系に入ってから「美術館の学芸員じゃなくて、掃除のおじさんになりたいんですよね」と言ったらある先生(管先生ではありませんよ)に「掃除のおじさんをバカにしている」と怒られた。僕は学芸員とは違う作品との関係を見つけたいだけだったんだけど。それはともかく、経済的に資本を投入しアーティストのマネジメントを成立させようという困難なことにあらゆる手を使って努力しているギャラリーが展示するのと同じものを、商行為の経済原則から距離がある大学という場所でなんの工夫もなくそのまま展示するのは、ギャラリーをバカにしていることにならないのだろうか?
今、明大のギャラリーゼロでは数人の学生の作品が展示してあって、これは本当によかったと思う。借り物じゃない、意味のある展示だ。小さいけれど学生それぞれが時間と努力を費やした実験の結果が展示されている。こういうことを積み重ねて、新しいアーティストを育てる方が教育機関としてもまっとうだし、既存のギャラリーとのネットワークも意味のあるものになるのではないか。もちろん、大学だから成立する企画というのは、すでに認知されているアーティストでもありえると思う。商業的なギャラリーではできないことに挑戦していけばいいし、いくらでもやることはあるはず。
今、気がついたんだけど、プロの学芸員になると「見てもらいたい」と思っていないものを、「見てもらいたい」ですと装うことができるようになるのかも。それは仕事だからしかたないだろうし、組織にいたらいろいろあるのはわかる。でも、学芸員になりたいわけでもなんでもない学生にそういう技術を求められても困る。僕だって仕事なら多少はがまんしますよ。いや、学生だからがまんしなくてもいいのに、実際はがまんをしてたわけだけど。
かわなかさんと田中功起さんのレクチャーと先日の佐々木愛さんとの青森ウォーキング以外は、DC系にいる間の僕と「アート」の関係は不幸極まるものだった。しかし、これは僕にとってよかった企画も他人にとっては不幸な企画という可能性もあるということだな。う〜む…、当たり前か。
12月からは(少なくとも僕にとっては)もっとおもしろいことができそうです。「アート」に分類される人もそうでない人にも関わってもらう予定ですが、みんな「アート」という名刺がなくても通用することをしている人たちです。アートかどうかより、クリエイティブかどうかを問題にしたい。アートなのにクリエイティブではない可能性があるのも不思議だが、そこがアートの懐の深さかもという気もするな…。少なくともアートだからクリエイティブということはない。でも本当はアートってクリエイティブなものだと思うんだけど。
そんなわけで元気がないのがどん底まで来て、やる気がでてきた感じかも。つまらないことを書いてごめんなさい。12月からのおもしろいことは、もう少ししたら告知します。