「Ciel Tombé」(シエル・トンベ)畠山直哉展 そして『穴』

5月23日、清澄白河のタカ・イシイギャラリーに畠山直哉展を見に行く。最終日ぎりぎりですがどうにか見ることができました。
パリの地下採石場を撮影した写真の展示。ヨーロッパには都市建設のための石材を都市自身の地下から採掘しているケースがあって、中でもパリの地下は「中世から近代まで続いた採石作業のせいで、グリュイエール・チーズに喩えられるほど、穴ぼこだらけ」だそうです。導入の数点は地上から見たパリの写真があって、点数として多いのは地下の採掘場跡。ただし地上の写真は、通常の意味での導入やパリという都市の説明以上に重要な意味をもっていると思う。単に異様な場所として地下空間を見せるのでは、都市の多様な表情のバリエーションの一つになってしまう。地上に表出する都市文明の形とその地下にあるがらんとした空間の相互関係を示すことによって、局所的な意味を超え、都市のあり方を新しく提示している。
もちろん一枚一枚の作品は単独に見ても美しい。まず(畠山のテクニックを考えたら当たり前なのかもしれないが)細部が表情もよく撮れている。遺された石の連なりや壁面の荒々しい表情。一つ一つの石のテクスチャー。石が削られた痕跡。細部だけではない。がらんとしたなんともいえない空間。何かが持ち去られたという気配。カメラそのものを連想させる地下の暗い空間。地上にいてはわからない、都市の姿。石の荒々しい表情と地下の静寂な空気感が同居しているので不思議な気持ちになる。ここには何かがあった。今はない。なんて映像的な場所だろう。そこにあった何かは形を変えて地上にあるわけだ。
畠山直哉の活動には、これからも注目したい。

ところでパリの地下といえばジョゼ・ジャバンニの傑作小説『穴』と、それを映画化したジャック・ベッケルの同名映画(これまた文句なしの傑作)である。であるって、誰にとって?もちろん僕。いきなり個人的な趣味でごめんなさい。どいらも甲乙つけがたい作品なので、シエル・トンベの写真を見た人には、ぜひおすすめです。ちなみにストーリはパリのサンテ刑務所に服役した主人公が穴を掘って地下から脱獄するというものです。『穴』を見るときは(もちろん映画館で見るのがいいのですが自宅でDVDで見る場合は)携帯電話の電源を切って、部屋の明かりを消して見てください。驚異的な映像空間が体験できることを保証します。